-2- 幼い頃

漫画ばかり読んでいる若者に言うべき言葉が三つだけある
働け、もっと働け、あくまで働け1

 上の一文はどこぞの時代の、どこぞの国の頑固親父の言葉でありますが、若干筆者によって加筆されています。自分で書いてみてから言うのも何ですが、1億3000万の漫画愛好の同志にとって身につまされるものがありますね。しかしながら、いうなれば上の引用文は、漫画を読む「私」を制止しようとする内なる自分の心の叫びに他なりません。この「内なる私」のせめぎ合い−葛藤−を克服するためにこそ、正にこのエッセイは書かれなければならないのです!(震)(自分に酔っているの図)

 世迷い言はさておき、もしも誰かに「あなたが初めて読んだ漫画は何か」と問われれば、私の場合、人並みに「ドラえもん」2を挙げることになりましょう。ドラえもんはもっとも古い記憶にある漫画ですが、殊のほか1巻3あたりの思い入れは深いようで、中島みゆきの「別れ歌」を思い出すのです。といいますのも、私がまだ幼稚園にもあがらない頃、母親が繰り返しテープで流していた「別れ歌」を聴きながら「ドラえもん」を読んでいたからです。すなわち私にとって、ドラえもんと言えば別れ歌。別れ歌と言えばドラえもんであります。 ところでそんな小さい頃に別れ歌なんぞ何度も聞かされて、人格形成上問題は生じないのでしょうか。結構不安です。しかたないから、とりあえずこんど夜中に一人で鏡を見て青ざめてみようと思っています。暖かく見守ってやってください。

 それから少し後は『コロコロコミック』4ですかね。「ごりぽんくん」とか「かげまん」5とか。私と同い年ぐらいでしたらご存じでしょう? でも自分の周りの人に「読んだよね?」って聞いても「知らん」って言われるのはかなり寂しいんです。あなたは知ってますよね?ね?

 取り乱すのはこの辺にしまして、今度は自分が読んだ中で記憶にある限りもっとも古い「少女漫画」を挙げましょう。これは2冊あって、タイトルだけはしっかりと覚えていました。まずは『マジシャン』。確か手品師6が探偵みたいなことをして活躍する話だったかと。あってますか?残念ながら内容は何にも覚えていません。でもなぜか、殺人のトリックで「食い合わせ」を使ってた話だけは覚えています。ドリアンとブランデーだったと思うのですが、そんなんで人が殺せるのか7と。それ以来ドリアンは恐ろしいというイメージが刷り込まれています。

 ところで、いまこの段階で作者の名前がわからないのでサーチエンジンで検索します…(しばらくお待ち下さい)

 …松川祐里子の『マジシャン』8が出てきましたよ?こりゃ違うや。

 …あ、高階良子だ。高階良子の『マジシャン』9。出版社を白泉社と勘違いしてたんですね。 で、もう一つが谷地恵美子の『すーぱあきっど』10。人の言葉が話せるハムスターと三人の悪ガキの話。基本はドタバタなんですが、最期はちょっと切ない。喋る齧歯類と少年達との突然の別れ。…ああ、こうやって私たちはみんな大人になっていくんだなあ(なった覚えがありません)。前に角川から復刻してたので買いそろえておこうと思ったのですが、結局5巻中3巻しか買ってないのは、ラストシーンが悲しくて読みたくないからなのかもしれません。

 このままいくと本文より脚注の方が長くなるので、おまけでこれら2冊の本とどういう縁で出会ったかについてお話いたしましょう。それは話せば長くなりますが、短くすると数行の物語です。画面を横1024以上にして、文字の大きさ「小」にすると1行かもしれませんが…。
 [ここから]私がまだ幼く、愛くるしかった頃、私はカギを持っていない鍵っ子だったため、知り合いのお家にお邪魔していたのです。その家にあった唯一の漫画がこの2作品だっというわけです[ここまで]。あれから20年近い歳月が経ちましたが、その当時、一人で黙々と漫画を読んでいた思いでを忘れることはないでしょう。ちなみに高階良子も谷地恵美子もそれ以後別の作品を読むことは無かったです。ただ谷地恵美子の方は『かかってきなさい』11で再認識することになりました。

 あと小さい頃に読んだ「少女漫画」というと『パタリロ』12ですね。これは何しろ小さい頃ですからあまり意味がわかってないで読んでいたはずです。あれが(色んな意味で)面白いと思えるようになるのは小学校中高学年ぐらいからではないでしょうか。こうしてみると、たいして漫画読んでいませんね。これぐらいなら頑固親父の幻聴に悩まされなくてすみそうです13

 では次回から個別具体的な作家や作品に触れていきましょう。




 つづく



脚註:
  1. ドイツ帝国初代宰相 Otto von Bismarck の言葉(一部改竄)。鉄血宰相。熱血宰相でも鉄拳宰相でもない。ちなみに私の高校時代の英語教師はある日、「わたしが幼稚園の頃はビスマルクって人がいたもんですよ。(以下略)」と言って、遠い目をしていた。この話が本当であるなら、この教師はゆうに百歳を越えていたことになる。

  2. 『ドラえもん』…言わずもがななので、特に書くこたないのですが…(藤子・F・不二雄,小学館てんとう虫コミックス)。雑誌掲載の初出は1970年。単行本は1974年。であってますか?現在何巻まで出ているのかは存じ上げません。実にいい加減な脚註ときたものです。

  3. しかし10巻だったような気もするし…だけどそうなると単行本10巻の発行年がアレだから年齢が…(以下必至に計算)

  4. 小学館の月刊誌。昔むかしは純然たるギャグ漫画雑誌、だったという噂をどこかで聞いたことはありませんか。現在はお子さま向け総合誌か。

  5. 「ごりぽんくん」「かげまん」…『ゴリポン君』(キド・タモツ,小学館てんとう虫コミックス)。『名たんていカゲマン』(山根あおおに,小学館てんとう虫コミックス)。ゴリポン君についてはかすかに記憶に残っているだけ。カゲマンは近年アニメ化されたのでご存じの方も多いであろう。また、かげまんの弟が活躍した作品もあったと思う。だが前世紀末の特筆すべき事件として1998年、『Comic Gon!』143号にて「カゲマン探偵手帳」が付録についたことを明記する必要があろう。ついでにこの号には特性トレーディングカードが3枚ついており、カゲマンが入っていた。恐らくこの国で今世紀中に、このカードでトレーディングする日が来ることはあるまい…

  6. マジシャンといっても、マギー司郎みたいなのではなくて美形なお兄さんが出る。

  7. 答え:殺せるようです。ドリアンとブランデーの食い合わせで東南アジアではたまに人が死ぬらしい…なんか胃の中で反応して発酵して爆発するのね。

  8. 『マジシャン』(松川祐里子,花とゆめコミックス)。おかしい、リアルタイムで読んでいたのに、全然覚えていない。「シードラゴンは空にいる 」や「ハート型爆弾 」はうっすらと記憶しているのに…

  9. 『マジシャン』…(高階良子,ボニータコミック)現在は文庫化(秋田書店)。

  10. 『すーぱあキッド』(谷地恵美子,花とゆめコミックス…現在絶版、後、あすかコミックスより刊)。似て非なるものとしては「コンポラキッド」ではなかろうか。

  11. 『かかってきなさい』(谷地恵美子,あすかコミックス)。後、集英社クイーンズコミックス にて刊(?)。粗筋…姉と弟が同一人物に恋して(以下略)

  12. 『パタリロ!』(魔夜峰央,花とゆめコミックス)当然リアルタイムで読んでいたのでパタリロ! 12「マリネラの吸血鬼」は読んでおります(現在単行本より削除)。ちなみに私が生まれて初めてビデオ録画予約をしたのはアニメ版パタリロ!のこの話の回。

  13. うぐぅわぁ…「全然葛藤してないやんけ!」という声が耳元で聞こえる!聞こえるうぅ…

  14. 『Comic Gon!』…ミリオン出版から発酵された漫画情報雑誌。このある意味画期的な雑誌のために1章設けたいぐらいである。テクスト部分は凄まじく文字が小さいので、目の悪い人は拡大鏡を用意する必要がある。創刊号から、えびはら武司(えびはら作画スタジオ)の「まいっちんぐマチコ先生」が連載されている。2号の特集は「宇宙戦艦ヤマトとは何だったのか」「月刊OUT誌上復活」。掲載漫画として「帰ってきた!!ゆうひが丘の総理大臣」「のらくろ上等兵」(田河水泡ではなく山根青鬼)「パンク・ポンク」(たちいりハルコ)、さらに「サーキットの狼」における流石島レース前夜の裕矢とミキの初Hを見たいがために池沢さとし本人に書かせるなど、もはや常軌を逸した雑誌といえよう。付録は「リングにかけろ」双六。はっきりいって無駄に良くできている。長くなったので続く

  15. 『Comic Gon!』その2…3号では特集として「サイボーグ009未完の大作そのラストシーンとは…」「かがみ・あきら夭折した美少女漫画家」。漫画とは関係ないが「ロボダッチ全キャラ大集合」。そのほか「三原順扉絵全集」「山野一の蘇るねこぢるワールド」「科学まんが対談内山安二vsあさりよしとお」。も一つすごいのが、竹熊健太郎と相原コージの『サルでも描ける漫画教室』に登場したイヤ〜ンエッチの助を小宮政志が漫画化するなど。さあ、ここまで何人の作家が出てきましたか?…あと5号まであるけどお終い。古本屋でみつけたら即購入してみてください。この二つの脚註に登場した作家、漫画のためにさらに脚註をつけるのは…さすがに御免被りたい。

    追記:このページの作成途中で知ったのですが、内山安二氏がお亡くなりになられました。氏には「コロ助の科学質問箱」でお世話になった方も多いことでしょう。心よりご冥福をお祈り申し上げます。















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